大きなカブニンジン
プロローグ
ラビィのニンジン畑。
それは、あらゆるニンジンが生産される場であり、一日に何度も収穫可能なそのすさまじい生産能力は、100名を超える規模で冒険するアルフ達の貴重な収入源であり、重要な栄養源でもある。
そんなニンジン畑に危機が訪れていた。
ラビィ:なんじゃこりゃ〜〜〜!!!
ラビィの叫び声に冒険者達が集まってくる。
彼らが見たのは畑を埋め尽くすほどの、大きなカブ……ではなくてカブニンジン。
ラビィ:こんな大きなカブニンジンが出来るなんて、さすがオレのガーデン。みなぎるー!
大きなカブニンジンをラビィがつかみ、力いっぱいひっぱる
ラビィ:うんとこしょ、どっこいしょ
それでもカブニンジンは抜けません。
ラビィ:なんだ、今の掛け声は??
アルフ:ラビィ、デカニンジンでパワーアップしてみたらどうかな
ラビィ:巨大化してあのニンジンを引き抜くんだな。燃えてきたー!
ラビィはおなじみの掛け声とともに巨大化。
大きなカブニンジンを大きなラビィが掴むと、力いっぱいひっぱる
ラビィ:うんとこしょ、どっこいしょ
それでもカブニンジンは抜けません。
ラビィ:かたいなあ。ちょっとみんな見てないで手伝ってくれよ
アルフ:そうですね。みんな手伝いましょう。これでは他のタネを植えることもできません。
大きなカブニンジンを数十人の冒険者達が取り囲み、一斉にひっぱる
冒険者達:うんとこしょ、どっこいしょ
それでもカブニンジンは抜けません。
ラビィ:一体どうなってんだ??
メルセデス:ここは私の出番のようね
アルフ:メルセデスさん!!
メルセデス:これは、ただのカブニンジンではないわ。これは古代の魔導書に記された魔法の大きなカブニンジンよ
アルフ:魔法の大きなカブニンジン?
ラビィ:なんでそんなことがわかるんだ?
メルセデス:さっきの掛け声よ
アルフ:「うんとこしょ、どっこいしょ」っていうあれですか??
ラビィ:なぜかこのカブニンジンを抜こうとするときには、あの声が出ちまうんだよなあ……
メルセデス:その声は、まさに魔導書の記載そのものだわ
アルフ:一体どうすればいいんですか?
メルセデス:闇雲に力で抜こうとしてもだめよ。大きなカブニンジンを抜くためには、手順があるのよ
ラビィ:手順だって??
おじいさん
メルセデス:まずはおじいさんが必要ね。
アルフ:おじいさん……ですか?
メルセデス:カブニンジンを最初に引くのはおじいさんと決まっているわ。
ラビィ:そんなもんなのか?
アルフ:おじいさんといえば……
そこに現れる一人の老人。
ニール:わしの出番のようじゃの
アルフ:ニールさん! でも魔法使いのニールさんにこんな力仕事をさせるわけには……
ニール:舐めるなよ、若造。見よ!この鍛え上げた身体! ワシの力、とくと見るがいい
ラビィ:ジジイ……やっぱり転職したほうがいいんじゃねえか
大きなカブニンジンをニールがひっぱる
ニール:うんとこしょ、どっこいしょ
それでもカブニンジンは抜けません
アルフ:抜けないですね……
メルセデス:ここでは抜けなくてもいいのよ。ものには順序というものがあるの。でも次がちょっと問題なのよね。
ラビィ:どうしたんだ??
メルセデス:次に必要なのはおばあさんよ
アルフ/ラビィ:おばあさん!?
おばあさん
アルフ:でも、私達のパーティには老年の女性の方はいませんよ
メルセデス:そうなのよね……
ラビィ:じゃあ、単純にこのパーティの年長者ってことでいいんじゃねえか? パルチェとか
パルチェ:誰が年長者ですって……
アルフ:パルチェさん! いたんですか
メルセデス:でも、パルチェ、今は緊急事態よ。私の計算では、この畑で栽培ができなければ、私達の冒険の資金は一ヶ月で底をつくわ
ラビィ:酒場に行くのも控える必要があるな
パルチェ:酒場に行けないのはちょっと……
ラビィ:今度一杯おごってやるからよ
パルチェ:……しょうがないわね。この貸しは高くつくわよ
大きなカブニンジンをニールがひっぱって、ニールをパルチェがひっぱる
ニール/パルチェ:うんとこしょ、どっこいしょ
それでもカブニンジンは抜けません。
アルフ:抜けませんね
メルセデス:この調子でいいのよ。あとは問題ないわ
孫娘〜ネズミまで
メルセデス:次は孫娘よ
アルフ:孫娘……。まあ、小さい子ってことですかね
リッカ:じゃあ、リッカやってみるよ!
ラビィ:お、いいねえ
そして同じことを繰り返し、次は犬。
メルセデス:ワウ族は誰かいないかしら?
シルヴィア:私がやるの?面倒くさいなあ
そして猫。
アンジェリカ:よーし。ステージの時間ね!
最後にネズミ。
ネス:じゃあ、ラッテ。お願いね!
メルセデス:これでメンバーはそろったわ
大きなカブニンジンをニールがひっぱって、ニールをパルチェがひっぱって、パルチェをリッカがひっぱって、リッカをシルヴィアがひっぱって、シルヴィアをアンジェリカがひっぱって、アンジェリカをラッテがひっぱる
全員:うんとこしょ、どっこいしょ
それでもカブニンジンは抜けません。
アルフ:抜けませんでしたよ?
メルセデス:おかしいわねえ。順番はこれであっているはずなのだけど……
おばあさん その2
アルフ:やっぱりおばあさんがいないせいですかね?
ラビィ:パルチェは、ちょっと年相応の深みに欠けているじゃねえか?
パルチェ:そこのウサギ。勝手なことを言ってると、焼いて酒の肴にするわよ…
メルセデス:しょうがないわね。やはり、老年の女性がいないとダメなのかもしれない
ラビィ:じゃあ、このパーティに新しいメンバが加わるまで、カブニンジンは抜けないってことか??
悩むパーティメンバの中で、アルフがとある可能性に気づく。
アルフ:もしかしたら、ここでいうおばあさんという条件は、必ずしも老年っていう意味ではなくて、もしかしたら単に年齢の大きさでクリアできるかもしれません
メルセデス:その可能性はあるわね
アルフ:エルフの皆さんって、確かとても長生きなんですよね? パーティにいるエルフの皆さんで、一番年上の方っておいくつなんですか?
ラシオ:アルフくん……。それはちょっと
シェンマ:エルフに年齢を聞くのは、とても失礼にあたるのんす……
アルフ:あっ、ごめんなさい……
ざわつくエルフ陣から、聖なる森の長が進み出る
ラムダ:や、やむを得ませんね……
ラシオ:姫様! まさか姫様にそんな役をさせるわけには
ラムダ:これも森の長たるものの務め……。今は緊急事態です。あくまでも可能性があるならば試してみるべきです
ラビィ:ラムダが一番年上だったのか。お前、いったい何歳なんだ??
ラシオ:ラビィくーん! 私達の話を聞いてたかな?? ちょっとあっちで弓の練習に付き合ってくれる!?
ラシオがあわててラビィを引き離すも、ラムダは引きつった笑顔で小声でブツブツとつぶやいている。
ラムダ:これも長たるものの務め……、長たるものの務めよ……
全員:(なんだかラムダ様が怖い!!)
大きなカブニンジンをニールがひっぱって、ニールをラムダがひっぱって、ラムダをリッカがひっぱって、リッカをシルヴィアがひっぱって、シルヴィアをアンジェリカがひっぱって、アンジェリカをラッテがひっぱる
全員:うんとこしょ、どっこいしょ
ようやくカブニンジンは抜けました
ラビィ:なんか出てきたぞ!!
いにしえの野菜の王
大きなカブニンジン:わしを眠りから覚ましたのは誰じゃ
ラビィ:カブニンジンが喋った!
アルフ:しかも立ち上がっていますよ!
大きなカブニンジン:わしはいにしえの野菜の王。お前達の力、試させてもらう
セプティム:大きな精霊の力を感じます
アルフ:まさか、幻晶獣!?
ラムダ:ここは私にまかせて!
魔法剣を携えたラムダが進み出る
ラムダ:あなたに聞きたいことがあるわ。なぜあなたは抜けたのかしら
大きなカブニンジン:ん……なんのことだ?
ラムダ:私がおばあさんだとでも言いたいのかと聞いているのよ!
全員:(ラムダ様めっさ怒ってますよ!!!)
ラムダ:塵になって、消えなさい! フローラルスピン!!
ラムダの一振りが、強力な風を巻き起こして大きなカブニンジンを襲う
大きなカブニンジン:問答無用かよーー!
大きなカブニンジンは消滅し、セプティムのペンダントに封印された。
エピローグ
その後、パーティの中ではエルフに年齢を尋ねることは絶対のタブーとなった。
大きなカブニンジンは、小回りの効く星1木属性幻晶獣として、パーティで活躍している。
そんなある日、ニンジン畑に再び危機が訪れていた。
ラビィ:なんじゃこりゃ〜〜〜!!!
ラビィの叫び声に冒険者達が集まってくる。
彼らが見たのは畑を埋め尽くすほどの、大きなモモ……ではなくてモモニンジン。
ラビィ:これは一体なんなんだ?
メルセデス:これは、古代の魔導書に記載された大きなモモタロウニンジンに違いないわ
ラビィ:モモタロウニンジン!
メルセデス:でもまずいことになったわね。大きなモモタロウニンジンはだいたい川上から流れてこなければならないものなのよ
ラヴィ:ニンジンなのに、なんで川上から流れてくるんだよ!
アルフ:どうしたらいいんでしょうか?
メルセデス:まあ、この場合仕方がないわ。とりあえずは、おじいさんとおばあさんよ
ラビィ:またかよー
メルセデス:今回はそれに加えて、イヌ、サル、キジが必要になるわ
ラビィ:イヌはとりあえずシルヴィアに頼むとして、サルとキジってなんなんだ???
メルセデス:サルはとりあえず、トッフォーでも呼んできなさい。キジはマルタちゃんに……
それは、どんぶらこっこで始まる物語。
物語はどこまでも展開し、いつまでも続いていく。
セブンズストーリーという物語に、次々と新しい仲間を加わり、果てしなく広がっていくように。
祝セブスト一周年。その物語がいつまでも魅力的で、終わりなく続いていきますように。
(FIN)