セブスト Fan Fun Festa

スマホゲーム「セブンズストーリー」とその運営への愛がみなぎる二次創作ショートストーリー

ルヴォールとデアドラ

 

プロローグ


 ルヴォールは帝国領の国境近くの町の駅で、帝都に向かう列車に乗り、出発を待っていた。

 

「ここまで来れば大丈夫か……」

 

 車窓から外を眺めながら、これまでの旅路を思い返す。住み慣れた屋敷から身一つで脱出し、追手の影に怯えながら移動する日々。

 

血のバレンタイン事件」

 彼がそう名付けたあの日の出来事。彼から安息の日々と財産を奪い、長く生きてきた吸血鬼としての矜持すらも打ち砕いた忌まわしい思い出。あの娘の血を吸っただけなのに……。

 

(もう過ぎたことだ。既に去った国のことは忘れよう)

 

 そう自分に言い聞かせる。日が沈んでから出発するこの列車は帝都まで直通で、およそ10時間の列車旅。ようやくゆっくりと眠ることが出来そうだ。

 

 発車のベルが鳴り、扉が締まり、列車がゆっくりと動き出す。

 ぼんやりと外を眺めていたルヴォールの視界に、車窓に反射し、通路の反対側に座る一人の乗客の姿が映る。

 長いマントに身を包んで、フードを目深にかぶり男女すら判然としない。

 

(誰だ……。そして、いつの間に??)

 

 警戒して旅をしてきたルヴォールは、周囲に不審な人物がいないか常に確認してきた。ルヴォールが席に座ったとき、そんな乗客は確かにいなかったはずだ。魔族の自分に気配を感じさせず、席についたというのか。

 

 鼓動が早くなり、本能が危険を知らせる。ルヴォールは窓に映るその乗客の姿から目を離せない。

 列車がスピードを上げる中、フードからわずかにのぞいた口元が、ニヤリと笑った。

 マントから伸びた手が、フードの中の髪を掴んで毛先をいじる。その見覚えのある薄紫色の髪……。

 

「ちょっと失礼」

 

 ルヴォールは隣の乗客に断って席を立つ。自分が罠にかかったのだという絶望を知りながら。

 

 

対決その1

 

 ルヴォールは、乗っていた客車を出て後方の車両へと移動する。背後で例の乗客が席を立ち、ついてくるのがわかるが、振り返ることができない。

 

(なぜやつがここに……。そんなはずは……)

 

 なにかの勘違いであることを期待しながら、車両を抜けるが、背後の乗客は、ルヴォールの後をついて離れない。

 

(いや……、いまはそんなことを言っている場合ではない。この状況の打開策を考えるのだ)

 

 いくつかの客車を抜けて進むと、営業時間外の食堂車に出る。

 薄暗い車内を進むルヴォール。

 

「どちらに行かれるのですか? ルヴォールさ・ま」

 

 ビクッと背中を震わせて、ルヴォールは立ち止まる

 

「どうやって……」

「うふふ、私がここにいるのが不思議ですか? いけませんわ、ルヴォール様。わたくしと再会の約束がありながら、ルーツ王国を出て、このような場所にいらっしゃるなんて」

「さ、再会の約束だと?」

 

 デアドラの表情はフードに隠れて見えない。

 

「これは少し……お仕置きしなければなりませんね」

 

 その瞬間、ルヴォールの両足が何かに絡め取られ、車両の床に引き倒される。

 

「これは……リボン!?」

 

 マントの下から無数のリボンがまるで蛇のように這い出し、ルヴォールの身体に巻きついてデアドラのほうに引きずっていく。

 

「さあ、こっちにいらして」

「こ……、このリボンは一体なんなのだ」

「これをご覧になってください」

 

 デアドラは羽織っていたマントを脱ぐと、裸身にリボンをまとった姿を現す。それ自体はこの前に見た通りなのだが、以前とは様子が異なり、リボンが身体の表面で意思をもった生き物のように蠢いている。

 
「魔力コーティングか……」

「御名答。さすがはルヴォール様!」

 

 しかし、これだけの量のリボンを操るとは、途方も無い魔法力。やはりこの娘は危険だ。戦うしかないのか。

 ルヴォールは、その身を拘束していたリボンを爪で切り払って立ち上がる。

 

「やっとその気になってくださったのですね」

 

 

対決その2

 

 ルヴォールは両手の爪を双剣のように伸ばし、デアドラに対峙する。互いにスキを伺う二人。先に仕掛けたのは、デアドラのほうだった。

 

「ルヴォール様、私の愛を受け止めてください」

 

 ルヴォールを無数のリボンが襲う。それを次々に切り払うルヴォール。

 

「いけませんわ、ルヴォール様。そのようにリボンを切り刻まれては、私の身体を隠す布がなくなってしまいます……。誰が来るともしれない車内で、私の衣服を切り刻むなんて、なんて大胆な愛の告白!」

 

 切らなければやられる。しかし切ってしまっては、それはそれでデアドラの思う壺。なんと破廉恥な攻撃なのだ……。

 

「スキあり、ですわ」

 

 ルヴォールの一瞬の迷いを見逃さず、デアドラのリボンがルヴォールの両腕を拘束する。

 

「しまった!!」

「さあ、これで身動きはできませんわよ。さあ、そのキバで私の血を吸ってくださいな」

 

 デアドラは、首に巻いていたリボンをほどいて、ルヴォールに近づく。

 

「無駄だ。血を吸うことだけは、私の意思がなければ、どうにもならないぞ」

「果たして、そうでしょうか?」

 

 デアドラは不敵に笑い、リボンをしならせてルヴォールを打つ。その攻撃を受ける度、言いしれぬ感情がルヴォールを襲う。

 

「これは、魅了付与攻撃か……」

「ふふふ。さすがはルヴォール様。アルフたちのパーティから拝借した、状態異常付与を高めるアクセサリーをガン積みした魅了攻撃ですわ」

「しかし、魅了で何ができるというのだ、わずかな時間、私の正気をうばったところで……」

「それだけありませんのよ」

 

 デアドラは、腰のリボンに差した二丁の拳銃を取り出す。

 

「それは……」

「ご覧になるのはさすがに初めてかしら。これは『幻惑双銃』。魅了付与時に、一定の確率で極度魅了を付与するという魔法のアイテムよ」

「極度魅了……だと!?」

「さあ、いつまで正気を保てるかしら?」

 

 デアドラの攻撃がルヴォールを襲う。攻撃に襲われる度、ルヴォールの感情が何者かによって強制的に上書きされていく。

 

(嫌だ、嫌だ、嫌だ……)


 その意思に反して、ルヴォールの身体がデアドラを求める。

 ゆっくりと近づく二人。ルヴォールの手がデアドラに伸びたその時。

 

「そこまでよ、デアドラ!!」

 

 車両内に声が響き、投げナイフがルヴォールの拘束を解く。

 

 

対決その3

 

「また出ましたわね。村娘!」

 

 ルヴォールを拘束から解いた投げナイフを放ったのは、あのいつかの村娘であった。

 

(なぜあの娘がここに!?)

 

 ルヴォールは状況についていけない。

 

「また人の恋路をじゃまするのね!」

「これが恋路とは笑わせるわ。邪悪な力でルヴォール様を洗脳しようとするとは」

「愛の力でルヴォール様を振り向かせようとしていたと言ってちょうだい。ルヴォール様への愛で魔力を増した私を、あなた一人で止められるのかしら?」

 

 その時、村娘の後ろから、槍を持った別の娘が飛び出し、デアドラに突きを放つ。

 

「一人ではないわ!」

 

 デアドラは後方に飛んでそれをかわす。

 盾と杖を構えた二人を加えて、武装した四人の娘がルヴォールを守るように取り囲む。

 

「あなた達は一体?」

「私達は、ルヴォール様ファンクラブのメンバーよ」

「ファンクラブですって!?」

「そう。美形かつ現代を生きる希少な吸血鬼であるルヴォール様をお慕いし、その様子をお見守りするとともに、抜け駆けしようとする不届き者を成敗するために結成された秘密結社ですわ」

「それがなぜここに?」

「私達のネットワークを舐めないで頂戴。国境の街のメンバからルヴォール様を付け狙うあなたを発見したと連絡が入り、緊急でメンバを招集したというわけよ」

 

 ルヴォールは全く理解が追いつかない。人里離れて密かに暮らす自分の生活が謎の組織に監視されていたというのか。

 

「まあ雑魚が4人になろうと、関係ないわ」

 

 デアドラの攻撃がルヴォールとファンクラブメンバーに襲いかかる。ファンクラブメンバーの盾使いがルヴォールをかばい、攻撃を弾く。

 

「ルヴォール様。我々がこの娘の相手にしている間に、はやくお逃げください」

 

 魔法使いが列車の天井に魔法を放ち、穴を開ける。

 

「す、すまない……」

 

 ルヴォールはコウモリにその姿を変えると、天井を目指して飛び立つ。

 

「逃しませんわ」

 

 デアドラもリボンを触手のように伸ばして天井を破壊し、自らの身体を屋上に引き上げる。それを追うファンクラブのメンバー。

 

 列車の屋上、コウモリの姿をしたルヴォールはそのまま夜空に飛び立つ。

 

「二度も同じ手で逃がしはしませんわ」

 

 デアドラはリボンを巻き取り、その形を複雑に変化させ、背中に巨大な2枚の羽を作り出す。デアドラはその羽を大きくはためかせると、巨大な蛾のように夜空に飛び立つ。

 

「まさかその姿で、飛べるというのか!?」

「お慕いするルヴォール様に少しでも近づきたくて、わたくし練習しましたのよ」

 

 ルヴォールは恐怖に駆られ、翼を懸命に羽ばたかせて逃げる。

 

(魔力コーティングを施したリボンで羽を作って飛翔するだと……。あんな能力はありえない。あれは……人間ではない……)

 

「させません!」

 

 ファンクラブの杖使いの魔法が、デアドラの羽を貫く。デアドラはそのバランスを崩し、ゆっくりと森に向かって落ちていく。

 デアドラの声が夜空に響く。

 

「ルヴォールさま! いつか必ず、あなたは私のものに……」

 

 

エピローグ


 ルヴォールは帝都近くの小さな村で、森のそばの洋館を手に入れ、再び安寧の日々を取り戻していた。あの日以来、あの娘の姿を見かけることはない。あの秘密結社とやらも……。

 

 夜更けにルヴォールは棺桶の中で目を覚ます。最近は長く眠ることが出来て、すこぶる調子がいい。

 

(あの悪夢のような体験を思い出すことも少なくなった)

 

 ルヴォールが棺桶の蓋をあけ外に出ようとすると、蓋が動かない。何かが巻き付いて、棺桶を塞いでいるようだ。

 

 ルヴォールは蓋の隙間から棺桶に巻き付いた何かを切り、ようやく外に這い出すと、その瞳に驚愕の光景が浮かぶ。

 

 ルヴォールの部屋には、無数のリボンが蜘蛛の巣のように張り巡らされ、強固な結界が作られている。その結界に腰掛け、ニヤリと笑う薄紫の髪の娘。

 

「ようやくお目覚めですか、ルヴォールさ・ま」

 

 ルヴォールは悪夢の日々が再び始まることを知る。
(FIN)

 

 

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