ラビィ姫 〜恋するニンジン畑〜 <前編>
プロローグ
冒険の旅を続けるアルフ一行の元を、ラビット族の老人が訪ねてきた。
ラビット族の老人:ここにラビィ様はいらっしゃいますか?
ファルメア:ラビィですか? そういえばどうしたのかしら?
アルフ:今はニンジン畑に収穫に行っていますよ。そろそろ帰ってくる頃かと
ラビィ:どうしたんだ??
ラビット族の老人:ラビィ様!!
ラビィ:な、なんだあ!?
ラビット族の老人:よくぞ、生きて……、生きていらっしゃったんですね。じいは……
ファルメア:一体どうしたの?! 知っている人?
ラビィ:俺は小さい頃から人間の町で暮らしていたからな。同族の知り合いなんていないよ
ラビット族の老人:ラビィ様……。寂しい思いをさせましたな……。あなた様はラビット王家第6代国王の第一王女、ラビィ姫です!
アルフ/ファルメア:ラビィ姫!
ラビィの秘密
アルフ:姫って……、ラビィ。おまえ女の子だったのか!?
ラビィ:ええっと、そんなことないと思うけど……
ラビット族の老人:われわれラビット族は、成人するまで男女の見分けがつかなくて、自分でも男性か女性かわからないのが普通なんです
ファルメア:ラビィはどうなの?
ラビィ:まあ、オレの場合は小さい頃から外で遊ぶのが好きだったし、ニンジンを引き抜く力も強かったから、自分では男かな〜って
アルフ/ファルメア:(適当だ……)
ラビット族の老人:ラビィ様は王家にお生まれになったのですから、お生まれになった際に宮廷の医師によって女性であると確認をされています。それにそのお顔。戦乱で亡くなったお妃さまにそっくりです
ファルメア:確かラビィはマイセ村の近くで魔物と戦っているアルフとばったりと出会ったのよね。その前は何をしていたの?
ラビィ:俺は小さい頃冒険者の一団に育てられて、故郷のことはあんまり聞いていないんだよな。旅の途中でとうちゃんとかあちゃんが亡くなって、冒険者達がまだ赤子だったオレをひきとって育ててくれたんだよ
ラビット族の老人:そのようにお聞きになっていたのですね。
ファルメア:事実はそうではないと……
ラビット族の老人:長い話になりますが、皆様、聞いていただけますか……
ラビット族の老人は名をシルベスタといい、王家に執事として仕える人物だった。
彼は知られざるラビィの出自を語った。
ラビィが生まれたのは、ルーツ王国とは海で隔てられた、獣人の国、ラビット王国であったこと。
ラビィはラビット王国の6代目の王と妃の間に生まれた初めての子どもであり、その誕生を国中が祝ったということ。
魔王が復活したのはちょうどその頃で、ラビット王国の領内であったこと。
ラビット王国は魔王に滅ぼされ、その際にラビィの父と母は殺されたこと。
ラビット族の多くが魔王の力で魔族に姿を変えられ、今その国は魔族領と呼ばれているということ。
そして、王都が魔族に襲われた際に、まだ生まれたばかりのラビィだけが当時王都に滞在していた冒険者の手に預けられ、国外に逃れたということ。
ファルメア:まさか海の向こうにあると言われる幻の獣人の国が、今の魔族領だったなんて……
シルベスタ:海を渡り、国外に逃れることが出来たのは、何人いたことか
ファルメア:あなたは今まで何をしていたの?
シルベスタ:私は冒険者とともにラビィ様をルーツ王国までお送りしたあと、海を渡り再び国へ戻りました。
アルフ:魔族領にですか?
シルベスタ:はい。仲間たちと一緒に戦うためです。今、あの地では、わずかに残ったラビット族の仲間たちが、隠れながら暮らしています。私はその一団に加わり、なかなかこの地に戻ることが出来ませんでした。
ラビィ様。あなたはラビット王家最後の生き残り、残された我々ラビット族の我々の希望なのです
ずっと黙って話を聞いていたラビィが口を開く
ラビィ:一度にそんなにたくさんのことを言われても、何をどう考えたらいいのかわからないよ……。ちょっと一人にしてくれないか……
シルベスタ:ラビィ様!
ファルメア:今はそっとしておいてあげましょう
おめかしさせたい
それから一週間、ラビィは調子が悪いといって宿にこもっていた。
そんなラビィの部屋をファティアとノエルが訪ねる。
ファティア:ラビィ。今日はどうしてもお願いしたいことがあるのよ
ラビィ:どうしたんだ?
ファティア:あなたが女の子だったって聞いて、私、いても立ってもいられなくて
ラビィ:なんだ?
ファティア:私にあなたをおめかしさせて!私が全力でコーディネートするから!!
ラビィ:えーー!
ノエル:そして、ノエルちゃんが、お姉さんウサギとして、大人のバニーの魅力を教えちゃうよ
ラビィ:(こいつら、オレを元気づけようとしてくれているんだな)
ラビィ:(オレもずっと引きこもっているわけにはいかないし……)
ラビィ:じゃあ、お願いしてみようかな! どうせなら可愛くしてくれよな
ノエル:そうこなくっちゃ
ラビィはファティア達に連れられるまま町の酒場に移動。その扉を開けると……
冒険者達:ラビィ、誕生日おめでとう!!
ラビィ:!!
セブティム:シルベスタさんに聞きました。今日はラビィさんの誕生日なんですよ
ラビィ:!!!
セプティム:アルフさんがみんなに声をかけて、今日の会を準備したんです
アルフ:ラビィ。君の生まれがどうだろうと関係ない。君は一人じゃない。僕らはラビィの仲間なんだよ
ラビィ:アルフ……。みんな……
その後は、ラビィを囲む飲み会が始まる。
ファティアとチュリエがこの日のために用意した大量の衣装に次々に着替えさせられるラビィ。
アンジェリアのアイドル衣装風ロッドラビィ、ノエルとおそろいのバニーガール風ハンマーラビィ、そしてガーネットの際どい衣装風の格闘ラビィ。
オーガスト:ラビィちゃんかわいいねえ。今度おじさんとデートしないか!
チュリエ:オーガストさんはだめです!
ファルメア:なんだか何も着ないよりもエッチな感じに見えるわね……
トッフォー:あー、アルフが真っ赤になってる
シルヴィア:少年、一体何に反応しているのかな!?
最後に用意された赤いドレスをまとって現れたラビィ
シルベスタ:これはラビィのお母様のウェディングドレスをイメージして作っていただきました。じいは……、じいは……
ラビィ:シルベスタ、いろいろありがとう。なんだか照れるなあ
アルフ:ラビィ、とてもキレイだよ。いつものラビィじゃないみたいだ
この気持は?
そんな酒場に町の住人が飛び込んできた。
町の住人:大変だ。町の西門に大量のマモノが出たんだ。助けてくれ。
アルフ:ラビィ、いくよ。街を守らないと
オーガスト:すまん、アルフ、俺達は飲みすぎて動けねえ……
アルフ:オーガストさん達は、ここに残って。下手に動くと危ないですよ。お酒を飲んでないメンバで向かおう。ラビィいくよ
ラビィ:お、おう!
アルフと赤いドレスのラビィは、酒場を出て西門に向かう。そこには大量のマモノが押し寄せていた。
ラビィ:こりゃあ、腕がなるなあ。あ!イテっ!!!
アルフ:どうした、ラビィ!?
ドレスの裾に足を取られて倒れたラビィに、アルフが駆け寄る
アルフ:大丈夫か
ラビィ:う、うん。スカートが足に引っかかって……。足を挫いたみたいだ
アルフ:ラビィはここで待ってて
ラビィ:でも、あんなにたくさんのマモノが……
アルフ:大丈夫!僕にまかせて。君は必ず守るから
アルフはそいうと大声でモンスターを挑発する。
アルフ:こっちだモンスター達。ラビィには指一本触れさせないぞ
アルフはすごい気迫で、モンスターたちを威嚇し、次々と倒していく
ラビィ:(アルフの背中がいつもと違って見える)
ラビィ:(なんだか胸がドキドキする……。なんだこの気持ちは……)
ラビィはアルフの背中から目を離すことが出来なかった
恋するニンジン畑
翌日、ラビィがニンジン畑で収穫をしていると、見たことのないニンジンが出来ていた。
うすい綺麗なピンク色で、ハートの形をしている。
ラビィ:なんじゃこりゃー
シルベスター:ラビィ様
ラビィ:シルベスタ、いつの間にそこに?
シルベスター:これは恋するハートニンジンです
ラビィ:ハートニンジンだって!?
シルベスター:我々ラビット族が恋に落ちるとニンジン畑に生えてくる魔法のニンジンですよ
ラビィ:!?
シルベスター:姫様。恋をされていますな
ラビィ:そ、そんなわけねえだろー!
真っ赤になって、否定するラビィ。
ラビィ:こんな出来損ないのニンジン、みんなに見せられないよ
ラビィは慌ててガーデンの一面に生えたニンジンを次々と引き抜いていくが、すべてがハートニンジンになっている
ラビィ:オレは恋なんかしてないからなー
ラビィは大量のハートニンジンを抱え、シルベスターの元から走って逃げ去る。
自分の気持ちに気づいたラビィ。
アルフ、セプティム、ラビィの三角関係の恋の行方は。
そして、魔王に支配されたラビット王国の運命は。
(後編に続く)