異世界居酒屋ほそP&まっすー
王都フリューレの路地裏に一風変わった店がある。
居酒屋「ほそP&まっすー」
これは一軒の居酒屋とアルフたちの、小さな物語である。
プロローグ
王都の通りを疲れた様子で歩くトッフォーの背後からパルチェが声をかける
パルチェ:なにをトボトボ歩いているんですの?
トッフォー:うわ! びっくりした。なんだ、パルチェか
パルチェ:なんだか背中が疲れていますわよ、トッフォー
トッフォー:最近忙しかったからな……。黄金大収穫とか、黄金大収穫とか、黄金大収穫とか
パルチェ:ぼやかないで。貴方らしくないですわよ。そんなあなたに耳寄りの情報を持ってきてあげましたわ。最近、王都の冒険者の間で話題になっている不思議な酒場があるんですの。
トッフォー:不思議な酒場?
パルチェ:見たことのない異国のお酒や料理が並ぶ酒場なんだそうですけれど、誰でもたどり着けるわけじゃないらしいんですの。
トッフォー:どういうことだ!?
パルチェ:どうやらその店は、特定の時間に、特定の手順を踏まなければ現れない、謎に包まれたお店らしいですわ。
トッフォー:それは……お宝の予感がするな
パルチェ;そうこなくては!
トッフォー:トレジャーハンターの血が騒ぐぜ!
パルチェ:メルセデスさんから預かった地図と手順がこれですの。
トッフォー:えーっと、なになに? ソニアとオルデンヌの店がここで、2つ先の通りを右に曲がって、3つ先の通りを左に入って、突き当りまで行ってから一回戻って、すぐ1つめの路地を右に……。なんだこりゃ?
パルチェ:まあまあ。とりあえずこのメモの通りに行ってみますわよ
居酒屋「ほそP&まっすー」
メルセデスが記した指示の通りに通りを進むトッフォー達。入り組んだ小道に大小無数の店が立ち並ぶ。
トッフォー:王都の中でもこの辺りは小さな路地が入り組んでカオスだよなあ
パルチェ:着きましたわ。あの店ではないかしら?
トッフォー:赤い提灯、そして看板にはウサギの絵と異国の文字……。なんだかやけに味のある絵だな……
パルチェ:メルセデスのメモの特徴とも一致しますわ。入りますわよ
パルチェに促されて、紺色の暖簾をくぐるトッフォー。
オルデンヌ:いらっしゃいませ。居酒屋「ほそP&まっすー」へようこそ!
トッフォー:なんでオルデンヌがここにいるんだ。それにソニアまで!?
ソニア:今日は特別にね。さあ、みんな! 今日の主役がいらっしゃたわよー
全員:トッフォー、二年間おつかれさま!!
トッフォー:な、なんだあ!?
パルチェ:今日はこのお店で貴方のお疲れ様パーティを開きますわ!
トッフォー:なんで俺なんだ!?
ファルメア:このパーティの中で、この二年間で、最もたくさんのクエストに出たのがあなただったのよ
トッフォー:俺なんて、クエストにはついていっているけど、戦闘自体はからっきしだぜ
アルフ:トッフォーさんがいつもソルをたくさん集めてくれるから、みんなが助かっているんです
ファルメア:そうよ。ソルがなければ、アクセサリーの強化も出来ないし、新しい仲間を迎えることだって出来ない
セプティム:トッフォーさんは私達のパーティの生命線ですよ
ラヴィ:それに、この前の黄金大収穫でトッフォーが頑張ってくれたおかげで、ソルはカンストしているからな〜
トッフォー:みんな……
オルデンヌ:さあ、パーティの始まりよ、まず最初の飲み物のご注文はこの店の名物、トリアエズナマチュウでいいかしら?
異国の飲み物と料理
サーバーからジョッキに手際よくビールを注ぐまっすー
まっすー:オルデンヌさん、このナマチュウを2番テーブルさんにお願いします
オルデンヌ:わかりました。
まっすー:いろいろ手伝ってもらってすみませんね
オルデンヌ:こちらこそ無理を言って、お店を貸切にしていただいたんですから。今日はカウンターでバーテンダーに徹してくださいね
まっすー:ありがとうございます
オルデンヌ:それにしてもこのきめ細やかな泡。表面に氷が浮かぶ程に冷えたグラス。このエール、只者じゃありませんね
まっすー:わかりますか? この専用のサーバでマイナス2度まで冷やしたエールに、凍らせた泡を掛けて旨味を閉じ込めているんです
オルデンヌ:(氷点下のエール?、凍った泡……。一体どんな技術が……)
巨大な舟型の器に、見事な包丁さばきで刺し身を並べていくほそP。
ほそP:ソニアさん、この舟盛りをトッフォーくん達にお願いします
ソニア:色とりどりの盛り付けが、まるで宝石箱のようだわ
ほそP:どの魚も今朝水揚げされたものを、ツキジから取り寄せたばかりの逸品です
ソニア:ツキジ……ですか??
ほそP:おっと失礼、こちらの話です
ソニア:そして、そちらの大きな丸いお皿に薄く切って飾られたお魚は?
ほそP:ふぐ刺しの盛りつけですよ
ソニア:(この包丁さばきと、飾り切りの技術……。この男は一体何者なの……)
パーティは続く
ソニア:ご歓談中失礼いたします。今日はトッフォーのために、この男たちが特別ステージを披露してくれることになりました
ミナス:じゃあ、今日は俺のギターでこの男に歌ってもらうぜ
まっすー:あー、えーっと。今日歌うのは、これはある人が作ってくれた、トッフォーに捧げる歌です
ソニア:じゃあ、まっすーさん。準備はOKですか?
まっすー:ちょっと待ってください。歌いだしを忘れて……ちょっとiPhoneで確認しますね
店内にまっすーの歌声が響く。
見てきたように語られるトッフォーの活躍の数々。
ソニア:まっすー。ありがとう!
全員:(万雷の拍手と歓声が響く)
ソニア:そして、次はこの人、王国きっての名画伯。この人が即興でトッフォーを描いてくれますよ
テレジアがステージに登場。設置されたキャンバスに筆を走らせ、あっという間に絵が完成する。
テレジア:トッフォーさんって、いっつもこんな感じですよね〜。レインボースライムの色彩がとっても素敵で〜
絵の中央にはトッフォーが描かれ、それの周囲をぐるりと囲むレインボースライム。
ソニア:そ、その絵はまさか……
ファルメア:またこの展開!?
テレジアの描いた絵から、大量のレインボースライムが出現し、絵の構図通りにトッフォーの周囲を除いて巨大なスライム達が店を埋め尽くす。
トッフォー:みんな、大丈夫か!?
アルフ:だめだ、スライムに挟まれて身動きが出来ない……
ファルメア:トッフォー、みんなを助けて……
トッフォーの足はガクガクと震えている。
トッフォー:バカを言うなよ。こんなにたくさんのスライム、俺だけで倒せるわけがないだろう!
ファルメア:トッフォー……
トッフォー:俺は聖騎士や魔法学院の先生じゃねえんだ。いつもオレは怖いんだよ。一人じゃ何も出来ねえんだ
その時、トッフォーの背後に二人の男が現れる。
ほそP:トッフォーくん。君ならやれるさ
まっすー:君はこの世界で、この二年間、誰よりもたくさんのスライムを相手にしてきた。今こそ目覚めるときだ。
ほそP:ほら、剣を構えて戦うんだ。はじめるなら、今がチャンスだ!
トッフォーの全身に力がみなぎる。
トッフォー:うおおおおお!
トッフォーが低く叫びながら突進し、巨大なスライムを一撃で葬る。
ファルメア:まさか、黄金級のレインボーデモンラージスライムが一撃で!
メルセデス:トッフォーこれを使って!
トッフォー:サンキュー、メルセデス。これでもくらえ!!
大地の力Ⅲが炸裂し、店内のすべてのスライムが一瞬で爆散
トッフォー:この力は一体……
ほそP:トッフォーくん、ありがとう。それじゃあ、みんなにデザートを出そうかな?
まっすー:コーヒーやお茶が欲しい人は僕が入れますからね
エピローグ
パーティが終わり、宿に帰る冒険者達。
仲間と離れて、通りを戻って店を探すトッフォー。
メルセデス:無駄よ。トッフォー。
トッフォー:メルセデス!?
メルセデス:あの店はもう見つからないわ。そもそもあんな区画はこの王都には存在しないのよ。
トッフォー:さっきまで、俺たちは確かにあの店にいたんだぜ
メルセデス:そうね。時空を歪める強大で恐るべき能力だわ
トッフォー:まさか、あんないい人たちが、怪しい力を操る魔族だっていうのか!?
メルセデス:逆よ。むしろ神様……というべきかな?
店の暖簾を外して、店じまいするほそPとまっすー。
まっすー:あれ、アルフくんたちが座っていたテーブルにこんなものが……
ほそP:なになに、忘れ物かなあ?
小さな封筒には、セプティムのかわいらしい文字で「ほそPとまっすーへ」と書いている。
封筒を開けると、中にはこんなメッセージが。
ほそPとまっすー
この二年間、本当にお疲れさまでした。
この世界のために誰よりもがんばる二人をいつも応援しています
これからもお体にお気をつけて
〜アルフ&セプティム&冒険者一同〜
(FIN)